くすかき二十一日目。くすかき最終日。雨の朝6時半、境内に64名の掻き手が集い、朝の静かな絵馬堂にて令和5年〈くすのかきあげ〉を無事に納めることができました。14年目にして2度目の雨となった〈くすのかきあげ〉。2年前の初めての雨は“避けたい雨”でしたが、今年は“雨を迎える”ことができました。
〈日々のくすかき〉の集大成が、その年の〈くすのかきあげ〉です。今年は会期中に4回、雨で中止の日があり、雨には雨の〈くすかき〉があることを意識するようになりました。そこから、自分の都合通りにならなくても“それ以外”の時間をイメージし、向き合い、受け止めることの大切さを学びました。今の時代は特に“目の前の出来事以外を想像する力”が必要なのだと思います。
雨の朝は大抵、雨でも来てくれた人と絵馬堂でお話しをする時間を過ごしました。その時間が、晴れとはまた違った趣のある“新しい〈くすのかきあげ〉のかたち”の誕生につながりました。
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朝5時、天神広場集合。暗い中、雨音が響く絵馬堂を皆で設える。6時半、当日参加者含め、掻き手全員集合。7時、〈くすのかきあげ〉開始。9時、〈くすかき終了奉告祭〉催行。9時半、記念撮影と締めの挨拶。10時、絵馬堂片付け、落葉と柵の撤去。12時半、直会昼の部(15時、表彰式)。19時、直会夜の部(19時半、スライドショー。20時、上映会)。
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今年度の〈くすかき〉も無事に会期(令和5年3月25日〜4月15日)を終えることができました。14年という年を重ね 〈くすかき〉は太宰府の新たな春の風景になってきました。
今年のくすかきを一言で振り返るなら「迎える」。たくさんの人をお迎えし、余裕をもって春を迎えることができた年でした。
朝6時半からの〈日々のくすかき〉には連日40〜50名の参加があり、会期を通じての述べ参加人数は1054名となりました。参加者が多いと、向き合える樟の木の数が普段の石灯篭の3本から、絵馬堂前の2本、天満宮幼稚園前の1本、回廊の1本と増え、広く天神広場を〈くすかき〉することができました。すると当然、集まる葉っぱの量も増え、掻き山の大きさも過去最大となり、これまでにないような存在感が生まれました。また現場に余裕ができると、私自身が状況をより広く深く捉えることができるようになり、人に丁寧に伝える時間や新たな発見に出会う機会が増えました。特徴的だった出来事としては“雨”の可能性を広げることができたことです。
どんな物事に対しても“迎える”意識を持つことの大切さを知りました。よい準備をして、余裕をもって、その人を迎えにいくこと、春を迎えにいくことができることの豊かさを実感しました。でもそれは支えてくれる仲間がいるからできることに他なりません。14年の春を共につないできた、たくさんの一人一人に感謝しております。
そして、迎えることの大切さに気づけたことと同じくらい、うれしい出来事がありました。それは“直会の復活”です。新型コロナウイルスの影響で2020-2021-2022年と3年間オンライン開催だったので、3年ぶりにみんなで顔を合わせて、今年の〈くすかき〉を振り返った時間は本当に素晴らしいものでした。
12時半からの〈直会/昼の部〉には50名(内7名子ども)が参加。参加回数を集計発表し優秀者に賞品を贈呈した〈表彰式〉は賑やかに盛り上がりました。19時からの〈直会/夜の部〉には65名(内8名子ども)が参加。スライドショーや上映会に向き合うみんなの熱量は言葉に換えられないものでした。
そこには今年初参加の人もいて、地元太宰府の人はもちろん全国各地から集った人の姿もあり、それぞれがそれぞれに〈くすかき〉を通じて“この春の自分を確認する時間”になっていました。そこには、うれしさも悔しさも、労いも反省も、各自ありました。でもこの時間こそが、それぞれに“次の自分へと向かう最初の一歩”となります。自分1人ではこの場は決して生まれません。自分1人ではこの自分に出会えません。
こうして、みんなと一緒に次なる春を迎えるために、次なる自分へと向かえることに、心から感謝しております。本当に良い春でした。
〈くすかき〉
新芽に押されて落ちてくる
新芽の数だけ落ちてくる
千年樟のその場所で
千年分を掻いてみる
千年樟のその場所で
千年樟を描いてみる
去年が今年に生え変わる
その瞬間に落ちてくる
新芽に押されて朝がくる
新芽の数だけ朝がくる
五十嵐靖晃
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第14回「くすかき-太宰府天満宮-」
[会期]令和5年 3月25日(土)〜4月15日(土)
[会場]太宰府天満宮 境内
[行事]くすかき成功祈願祭:会期初日 3月25日 開催
日々のくすかき:期間中 朝6時半より 土日のみ夕方16時からも 開催
くすのこうたき:期間中 毎週土日 開催
くすのかきあげ・くすかき終了奉告祭:会期最終日 4月15日 開催
[参加人数]1054名
[奉加帳賛同者]169名
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くすのかきあげ各当番
[掻き出し]五十嵐靖晃
[水当番]木下光敏 佐藤真理
[新芽当番]納戸瑠輔
[赤ほうき]さくら/黒野瑞姫 納戸繭子 江藤幹太
つつじ/納戸慶蔵 井原ひかる 天賀來星
ふじ/井原功介 松村真紀子 杉本八海
[舟当番]江藤幹太
[門当番]佐藤信二
[太鼓当番]陽山英樹
[進行]江藤応樹
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[特別協力]太宰府天満宮
[協力・協賛]株式会社中川政七商店/株式会社梅園菓子処/福田屋染物店/寿し栄/
油機エンジニアリング株式会社/ありがとう農園/株式会社ムーンスター
[企画・監修]五十嵐靖晃
[プロジェクトマネジメント]米津いつか
[デザイン]河村美季
[映像]仲信達也
[写真]三迫太郎
[アシスタント]黒野瑞姫
[芳樟袋縫製]納戸繭子
[松葉ほうき制作]原口葵
[デジタルアーカイブ]須之内元洋
[スペシャルサンクス]太宰府のみなさん
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雨の〈くすのかきあげ〉。松葉ほうきを上に向けているのは、今日は掻かないというメッセージでもある。
【くすの葉と振り返る】[全員]※今年の落ち葉は去年の若葉。自分の拾ったくすの葉を手に一年を振り返る。
【くすの葉替え】[全員]※同じ干支の人と自分の葉っぱを、去年がどんな年だったかをお互いに話しながら交換する。
【くすの葉、舟に乗る】[全員]※干支の順で入れ替わりながら大樟香舟に一礼してから、くすの葉を乗せる。
みんなの一年が舟に乗っていく。
【くすの香り、舟に乗る】[舟当番]舟当番が大樟香舟をつくる。そのあいだに全員で干支順に並んで輪になり海原をつくる。
【くすの香り、海原を渡る】[全員][舟当番]※舟当番が子年の手のひらに大樟香舟を乗せ、受けとった人は隣の人に受け渡しながら、人の手の海原を渡る。
どんぶらこっこ、どんぶらこっこ。大樟香舟は今年の春の香りを乗せて、人の手の海原を渡っていきます。未年で転覆しかけました(笑)
今年の樟の葉の香り(去年の記憶の結晶)も楽しみながら。
亥年の最後の手のひらまで到着したら、太鼓の合図で舟当番が一礼して吊り上げて台に乗せる。(拍手)
令和五年の大樟香舟。
連なる松葉ほうきは波のイメージでインスタレーションしました。
くすかき終了奉告祭へ向かう。
諸々を終えて、最後の連絡。
掻き山の葉っぱは、今年も「ありがとう農園」の田んぼに鋤きこまれます。
雨も上がって、最後はすっきり。
直会のワンシーン。豊かな時間。
翌日はお礼の品の発送作業。全国から寄付してくださったみなさんに太宰府からの春の香りをお届けします。
仮殿建設中の珍しい風景。
いつもの場所に戻ったけど、この春の分、何かが変わった。14年目の春を迎えることができました。