くすかき二十二日目。くすのかきあげ。

くすかき二十二日目。くすかき最終日。これまで以上に冷え込んだ朝6時半、境内に70名の掻き手が集い、朝の美しい光と静寂の中、令和4年〈くすのかきあげ〉を無事に納めることができました。一昨年はコロナの急拡大のため1人で行い、去年は雨となり水の流れを眺め根の形を想像しました。3年ぶりにやっとみんなで〈くすのかきあげ〉を行うことができました。

 

朝5時、天神広場集合。夜明け前、西の空の満月が美しい。暗い中、皆で落ち葉を移動。6時半、当日参加者含め、掻き手全員集合。7時、〈くすのかきあげ〉開始。9時、〈くすかき終了奉告祭〉催行。9時半、記念撮影と締めの挨拶。10時、落葉と柵の撤去。19時半、オンライン直会。

 

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今年度の〈くすかき〉も無事に会期(令和4年3月26日〜4月16日)を終えることができました。13年という年を重ね 〈くすかき〉は太宰府の新たな風物詩と言われるようになりました。

 

今年のくすかきを一言で振り返るなら「変化を楽しむ」。今年は2つの大きな変化がありました。1つは「掻き山の移動」もう1つは「梅園菓子処とのコラボレーション」。

 

まず最初の変化は「掻き山の移動」でした。歌舞伎〈平成中村座 太宰府天満宮奉納特別公演〉が天神広場で行われた際、その客席が〈くすかき〉の柵の位置と重なるため一時的にすぐ近くの天満宮幼稚園の園庭に移動することになったのですが、掻き山(葉っぱの山)を移動して気づいたことがあります。

 

それは〝掻き山は近くの樟の木と関係性をつくる″ということ。これまで13年間毎年同じ場所で〈くすかき〉を行ってきたのですが、その時に向き合う樟の木は近くにある3本の木でした。ところが移動先の幼稚園には、幼稚園の樟の木がありました。すると、自然とその樟の木を中心に〈くすかき〉をするようになり、その葉が掻き山に加わり、自ずと幼稚園の樟の木と向き合うようになりました。

 

太宰府天満宮の境内には約100本の樟の木があり、ナンバリングされて管理されている木は51本存在します。それならば、毎年向き合う樟の木が変わっていくようにすると、51年で同じ樟の木にもどってくるというようなサイクルで〈くすかき〉をすることもできるということです。樟の木には1本1本個性があり、生えている場所も境内の各所に至ります。ロケーションも葉の特徴も1年ごとに少しずつ変化していく。毎年、向き合う樟の木を変えながら51年かけて境内を旅するという新しい〈くすかき〉のあり方を、移動という変化があったからこそ想像することができました。

 

もう1つの変化は「梅園菓子処とのコラボレーション」でした。参道に店舗を構え「梅園さん」の呼び名で親しまれる太宰府天満宮御用達の「梅園菓子処」が新たに仲間に加わってくださり〈くすかき奉加帳〉(寄付制度)のお礼の品として〈くすかき〉のために特別につくられたお菓子「令和の翠 くすかき印」をご提供くださいました。これまでは樟葉を詰めた「芳樟袋」と、葉から抽出した樟脳を包んだ「樟香舟」という形で、太宰府の春の香りをお礼の品としてお届けしていたのですが、そこに新たにお菓子が加わりました。しかも、境内の梅でつくられた梅餡を使ってくださったおかげで、今年のお礼の品は「樟と梅」という、まさに太宰府を象徴する春の香りを奉加帳に参加してくださった全国各地の皆さんにお届けすることができました。

 

また店頭には期間限定で「梅園×くすかき」という形で、〈ミニ梅守〉(こし餡をはさんだ京麩焼きに〈くすかき〉で使用する松葉ほうきと樟の葉の焼印を押したもの)と〈うその餅 特製くすかき仕様〉(ミニサイズの松葉ほうきで3色の層になったそぼろを掻いて〈くすかき〉的体験がお菓子でできるもの)が並びました。元来、和菓子と季節の関係は密接で旬の素材を使ったものや季節を象徴するものなど、四季の移ろいを感じさせてくれます。これはまさに〈くすかき〉が太宰府の新たな風物詩として地域に受け入れてもらえたという大きな変化でした。

 

「掻き山の移動」と「梅園菓子処とのコラボレーション」という2つの変化。これまでと違う新しい挑戦をすると、当然手間やプレッシャーがかかり、ストレスやリスクも増えます。ですが、樟や太宰府天満宮のように1000年以上あり続けるものは、常に環境や時代に合わせて若葉を芽吹かせるように挑戦し続けている姿があり、ただ守るのではなく核心を持ちつつ変化し続けることが結果的にあり続けることだということを体現しています。当然1000年続くアートプロジェクトを目指す〈くすかき〉としても、変化こそ重要な出来事なのです。結果、今年のみんなでそこに挑戦し乗り越えることで楽しむことができ〈くすかき〉なりの令和4年の若葉を芽吹かせ、年輪をまた1つ重ねることができました。

 

最後に、誰かが言いました「くすかきって親戚の集まりみたいだよね」。本当にそんな感じがします。そこには初めての人ももちろんいますが、心のふるさとの様な、どこか懐かしい雰囲気が現場にはあります。そして、関わる人の変化や成長とともに〈くすかき〉も成長しています。

 

最終日は、また来年に向けての初日でもあります。春、若葉が芽吹く頃、親戚のような仲間が集う杜で再会する朝が楽しみです。

 

〈くすかき〉

 

新芽に押されて落ちてくる

新芽の数だけ落ちてくる

 

千年樟のその場所で

千年分を掻いてみる

 

千年樟のその場所で

千年樟を描いてみる

 

去年が今年に生え変わる

その瞬間に落ちてくる

 

新芽に押されて朝がくる

新芽の数だけ朝がくる

 

五十嵐靖晃

 

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第13回「くすかき-太宰府天満宮-」

[会期]令和4年 3月26日(土)〜4月16日(土)

[会場]太宰府天満宮 境内

[行事]

くすかき成功祈願祭:会期初日 3月26日 開催

日々のくすかき:期間中 朝6時半より 土日のみ夕方16時からも 開催

くすのこうたき:期間中 毎週土日 開催

くすのかきあげ・くすかき終了奉告祭:会期最終日 4月16日 開催

[参加人数]667名

[奉加帳賛同者]177名

 

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くすのかきあげ各当番

[掻き出し]五十嵐靖晃

[水当番]江藤応樹 納戸慶蔵

[新芽当番]天賀琉月

[赤ほうき]

さくら/大里武史 岡村知紗 納戸真希

つつじ/陽山英樹 納戸繭子 江藤幹太

ふじ/井原功介 松村真紀子 杉本九龍

[舟当番]岡村知紗

[門当番]佐藤信二

[太鼓当番]五十嵐靖晃

 

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[特別協力]太宰府天満宮

[協力・協賛]株式会社中川政七商店/株式会社梅園菓子処/福田屋染物店/油機エンジニアリング株式会社/

ありがとう農園/株式会社ムーンスター

[企画・監修]五十嵐靖晃

[プロジェクトマネジメント]米津いつか

[デザイン]河村美季

[映像]仲信達也

[写真]三迫太朗

[芳樟袋縫製]納戸繭子

[松葉ほうき制作]原口葵

[デジタルアーカイブ]須之内元洋

[スペシャルサンクス]黒野瑞姫、太宰府のみなさん

 

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朝5:00葉っぱの移動。

 

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舟当番が大樟香舟に「芳樟袋」「樟香舟」「令和の翠 くすかき印」「樟の葉」を飾り付けます。

 

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4月16日の朝の落ち葉が入った網袋。水当番の手桶と柄杓。掻き出し用の特大松葉ほうき。太鼓。

 

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神職の方も見に来てくださっております。ここに1994年まで大きな樟がありました。

 

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【葉っぱを落とす】新芽当番の子供たちが、新芽が落ち葉を押し出す様に、今朝の葉っぱを落とし、4月16日の落葉風景をつくります。

 

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【根っこをつくる】掻き手全員で松葉ほうきを使って、落ち葉で千年樟の根っこをつくります。

 

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今年の根っこ。踏まないように気をつけながら歩いています。

 

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【幹をつくる】会期中に順々に咲く花にちなんで組み分けした〈さくら→つつじ→ふじ〉の順で入れ替わりながら1つの掻き山にまとめ幹をつくります。

 

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つつじから ふじへ。

 

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ふじから 赤ほうきへ。

 

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赤ほうきが幹(掻き山)を仕上げます。

 

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赤ほうきが縞模様を入れて、次の葉っぱが落ちてくる場所を整えます。

 

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【香りを届ける】舟当番が幹(掻き山)の頂に大樟香舟を乗せ、香りを天に届けます。感動的な状況に自然と拍手が湧き上がります。

 

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一昨年はコロナの急拡大のため1人で行いました。去年は雨のため水の流れを眺め根の形を想像しました。3年ぶりにやっとみんなで届けることができました。

 

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元の風景にもどりました。〈くすかき〉も若葉を芽吹かせ年輪を1つ重ねることができました。まだ1000分の13年目ですが確実に1つ大きくなりました。

 

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最終日の今日が来年に向けての初日です。松葉ほうきもきちんと整理して保管完了です。