変わらない頼もしさ/Cerrito Azul交流13日目

Cerrito Azul交流13日目。今日は「糸巻き」と「糸紡ぎ」を行った。

 

TURN監修者の日比野さんや、多くの関係者や取材陣が視察に訪れたので、自分も含め先生たちや施設関係者はどこかよそ行きな雰囲気だったが、そんな中でもCerrito Azulのみんなは普段通り。糸巻きしながら大きなあくびをするアレッサンドロ、いつも通り居眠りしているハンスなどなど、変わらない彼らが、なんだか頼もしく感じた。

 

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大きなあくびをするアレッサンドロはリラックスムード。

 

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ハンスはいつも通り寝ています(笑)

 

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みんなで糸紡ぎ。


小さな変化/Cerrito Azul交流12日目

Cerrito Azul交流12日目。今日は「糸巻き」を行った。

 

最近、交流当初は糸巻きに関心を示さなかった、ディエゴやエドゥアルドの様子に変化が起きている。

 

ディエゴは糸に触れていることさえあまり興味を持たなかったのに、最近は糸玉を巻いたりするようになった。

 

エドゥアルドもあまり上手に自分の体をコントロールできないようだけれど、糸巻きに関わりたそうにしているように感じる。

 

ディエゴに関しては目に見える変化なので分かりやすい。本人としては、約10日間、しばらく観察してから、ようやく腰が上がったということなのだろう。やればできることにも驚いた。きっとそういう性格なのだ。

 

エドゥアルドに関しては、あくまでこっちが感じるというものではあるが、ここでの関係では、ある意味感じることが全てであるので、それを自分は信じるし、素直に嬉しく思えるのだ。

 

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絡まった糸をほぐそうとしているエドゥアルド。

 

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絡まった糸を上手にほぐしたディエゴ。


最初は怖い/Cerrito Azul交流11日目

Cerrito Azul交流11日目。今日は「プール」と「糸巻き」を行った。

 

昨日、参加しにきてくれたイヴァンの言葉を思い出していた。

 

「小さな子供たちを想像していたから、最初は怖かった。自分より大きな人もいて、突然何をされるか分からなかった。殴られる覚悟をして、糸巻きの中にいた。でも、しばらくそこで一緒に糸巻きをしていたら、そうでないことが分かってきて、自分の中の恐怖心も少しずつ溶けていった。最後はそこから出たくないと思うようになった。自分の心境は変化していった」

 

気がつけば、自分とCerrito Azulとの交流は11日目を迎えている。振り返ると、イヴァンの言っている感覚は交流初日の自分とまったく同じだった。最初はみんな怖いのである。それは相手であるCerrito Azulのみんなも一緒だろう。はじめて接触する存在に恐怖心を抱くのは、むしろ生存本能としては正しい。

 

11日間の交流を通して、心の距離は近づいた感覚がある。言葉を交わすわけではないので、何かを明確に確認できるわけではないけれど、一緒にいる自分の感覚が違うというのだけは確実である。

 

それでも心の片隅には、突然殴られる可能性もあることは覚悟している。でもそれは他者への尊厳や礼儀のようなものである。

 

人と人との内面的な距離は誰にも目に見えない。近くても遠いし、遠くても近い。唯一わかるのは、自分自身の心の有り様である。

 

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人と人との内面的な距離は誰にも目に見えない。

 

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近くても遠いし、遠くても近い。

 

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唯一わかるのは自分自身の心の有り様である。


糸巻きの中にいる/Cerrito Azul交流10日目

Cerrito Azul交流10日目。今日は「糸巻き」を行った。

 

ペルー在住15年でアンデス染織専門家の有紀さんと、パターンナーでアルパカを育てたり糸紡ぎをしている人とのネットワークを持つイヴァンがCerrito Azulの交流に参加しに来てくれた。

 

有紀さんの言葉が印象に残っている。

 

「職業柄、糸巻きはたくさんしてきたけど、それはあくまで作業であって、2人もしくは1人でも糸巻きはしてきた。でも今日は、まるで糸巻きの中にいるようだった。こんな体験は初めて。かつての古代アンデスの山々で糸を紡ぎ、糸巻きをしていた人たちもこんな空気感の中で、暮らしていたのかもしれない」

 

大勢で糸巻きをする時、作業効率はもちろん良くない。しかし、糸という素材が持つ人をつなげるような力を発揮し、特別な空気感を醸し出す。

 

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糸巻きの中にいる風景1。

 

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糸巻きの中にいる風景2。

 

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糸玉も交流を重ね徐々に増えてきました。

 

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言葉以外のやり方で伝えます。


時を紡いでいる/Cerrito Azul交流9日目

Cerrito Azul交流9日目。今日は「糸巻き」と「糸紡ぎ」を行った。

 

アルパカの原毛についた草や土や糞を、繊維を広げて取り除いていると、まるでアンデスの高原の記憶を解きほぐしているかのようである。それを糸として紡いでいくと、まるでその地を生きた時間を一本の糸として紡いでいるかのようである。

 

時間とは本来、こういった存在なのかもしれない。

 

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記憶を解きほぐし、、、時を紡ぐ、、、。

 

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記憶と時間に丁寧に向き合う。


人が本来もっている感じる力を呼び起こす/Cerrito Azul交流8日目

Cerrito Azul交流8日目。今日は「糸巻き」と「糸紡ぎ」を行った。

 

アルパカの原毛には草や土や糞がついて固まったような部分がある。

アルパカがアンデス山脈の4000m近い高原を生きていた時についたものだ。

糸紡ぎをする前にそれを丁寧に、ひとつずつ繊維を解きほぐすように広げて、取り除く。

その時、大地の香りがする。

ホルヘは時々、鼻に近づけて匂いを嗅いでいる。

それはまるで、遠くの大地を想像しているかのようだ。

レナトは時々、頰にあてて、しばらく触感を楽しんでいる。

それはまるで、厳しい自然を生きた命のぬくもりを確認しているかのようだ。

2人はこの原毛がアンデスの高原を生きたアルパカのものであることは知らない。

素材と丁寧に向き合うことで、指先や鼻を刺激し、人が本来もっている感じる力を呼び起こす。

 

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アルパカの原毛と丁寧に向き合うホルヘ。

 

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細かなものまで、ひとつずつとっていくエルネスト。

 

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ゆっくりとした時間が流れます。

 

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アルパカの原毛。この黒い部分を取り除きます。


マルセロが糸を紡ぐ/Cerrito Azul交流7日目

Cerrito Azul交流7日目。今日は「糸巻き」と「糸紡ぎ」を行った。

 

糸紡ぎは、これまでやってきた糸巻きや、アルパカ原毛をきれいにするアクテビィティに比べると、単純に所作として難しい。自分もまだ思うように糸を紡ぐことはできない。

 

ところが今日、チエロおばあちゃんに教わって、マルセロが糸紡ぎをしたのだ。

 

糸巻きなど細かい手作業は好きなのは感じていたが、こんなにあっさりと糸紡ぎを習得するとは!

 

教えているチエロおばあちゃんも嬉しそう。

 

隣では食堂のレオさんがレナトに糸紡ぎを伝えている。レナトはまだちょっと難しそうにしている。

 

とはいえ、Cerrito Azul関係者の中で、教える側と学ぶ側ができ、糸紡ぎをきっかけにプロジェクトが動きはじめているところが面白い。というか、糸を紡げる人がこれだけいるというペルーという国と糸の関係が面白い。

 

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糸巻きもそれぞれ交代しながら、いろんな役割を担うようになってきました。

 

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引っかかって急に止まったり、引っ張って強く動いたり、いろいろあるけど、玉になります。

 

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アルパカの原毛という素材が手に触れることで、柔らかな空気感を作り出す。

 

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チエロおばあちゃんからマルセロへ糸紡ぎを伝えます。

 

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食堂のレオさんからレナトへ糸紡ぎを伝えます。


食堂のレオさんも糸紡ぎできます/Cerrito Azul交流6日目

Cerrito Azul交流6日目。今日は「糸巻き」と「糸紡ぎ」を行った。

 

Cerrito Azulの食堂で、毎日ご飯を作ってくれているレオさんも、なんと!糸紡ぎができることが発覚し、昼食の下ごしらえを早めに終えて、今日のアクテビィティに参加しにきてくれた。

 

ホームステイ先のチエロおばあちゃんに続いて、食堂のレオさんがCerrito Azul関係者で2人目の紡ぎ手。徐々に糸にまつわるアクテビィティに関わってくれる人がCerrito Azul関係者の中で広がりを持ちはじめている。これはプロジェクトとしても良い流れだ。

 

もしかしたら、施設利用者の家族や親戚にも糸紡ぎができる人や、こういったアクテビィティに興味がある人もいるかもしれないということで、より広く参加者を集う声がけをしてもらうことになった。

 

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ホルヘとレナト。目を合わせることはないけど、上手に糸を出していきます。

 

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マルセロはやっぱり糸巻きが好きみたいです。やっぱり今日も卵型。

 

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アルパカ原毛を綺麗に広げています。なんだかみんなで毛づくろいしているみたいです。

 

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この作業は糸巻きとはまた違った、独特な穏やかな雰囲気が流れます。

 

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食堂のレオさん。糸紡ぎできます!


手はこの世界とコミュニケーションしている/Cerrito Azul交流5日目

Cerrito Azul交流5日目。今日は「糸巻き」と、新たに「糸紡ぎ」を行った。

 

昨日の糸紡ぎリサーチ後、どうしても糸紡ぎをしてみたくなったことを相談すると、ユキさんがご自身のアトリエに保管してあったアルパカの原毛を提供してくださった。感謝の気持ちを伝え、ホームステイ先にアルパカの原毛を持ち帰ると、家主のチエロおばあちゃんが、なんと糸紡ぎができることが発覚!これは何か良い流れを感じる。

 

さらに、一連の事情を説明すると、チエロおばあちゃんもCerrito Azulで一緒にアクテビィティに参加してくださることになった。

 

こうして、「糸巻き」に続いて「糸紡ぎ」が、交流先施設Cerrito Azulでの新たなアクテビィティに加わった。

 

今日からは広場のある施設で糸にまつわるアクテビィティを行うことになり、5分ほど皆で歩いて移動。

 

歩いているとエディソンが、すぅーっと手を握ってきた。エディソンは普段、手を叩いたり、飛び跳ねたり、なかなか落ち着かないタイプ。なぜ自分の手を握ってきたかは分からないが、握りたかったのか、外を歩いて移動するのが不安だったのか。手をつないで歩いていると、普段に比べてもすっかり落ち着いているようだった。

 

エディソンの手は、身長に比べて以外と大きくて、しっかりとしていた。

 

広場に着くと、まずは糸巻き。2グループに分かれて順調に糸巻きをしていった。広場という場所性か皆気持ちが良さそうに見えた。マルセロが巻いた糸玉は今日も卵型になった。アンデス文明のとある村の遺跡から発掘される糸玉は全て卵型なのだそうだ。

 

マルセロの手と糸が出会うことで、この形が生まれる。

 

続いて、アルパカの原毛を机に広げ、糸紡ぎをしてみた。実は糸紡ぎをする前に、原毛についた草や土を、繊維を広げながら取り除く作業がある。今日は主にこれを行った。アルパカの原毛を両手で引っ張って広げるアクテビィティをしていると、レナトが手に取ったアルパカの毛を頬に当て、ぼっーとしている瞬間に出会った。彼はその毛がアルパカであることは知らない。

 

レナトの手がアルパカのぬくもりを感じて、頬にあてたくなったのだ。

 

手を握ることで心を落ち着かせるエディソンの手。

アンデスの遺跡と同じ卵型の糸玉を巻くマルセロの手。

アルパカのぬくもりを感じ頬にあてたレナトの手。

 

その手で何かに触れることで、穏やかな気持ちを感じることができる。

その手で何かに触れることで、遠い誰かを感じることができる。

その手で何かに触れることで、命のぬくもりを感じることができる。

 

手はこの世界とコミュニケーションしている。手は自分と世界をつないでいる。

何に触れ、何をつかみ生きてきたのか、手はその人を表しているようだ。

この手が持つ可能性をもっと信じてみたいと思う。

 

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エディソンが手を握ってきた。

 

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マルセロの手は卵型の糸玉を巻く。

 

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チエロおばあちゃんも加わって、みんなで糸巻き。

 

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アルパカの原毛とプシュカ(糸紡ぎの道具)。

 

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アルパカのぬくもりを感じるレナトの手。


糸が紡げることが恥ずかしいこと/糸紡ぎリサーチ

今日は糸紡ぎのリサーチをしにリマ中心部から車で40分ほど離れた地域に住むオスカルとローラに会いに行った。きっかけは、カトリカ大学でアンデス染織の講義をしていたユキさんとの出会いだった。ユキさんは日本人で、ペルーに15年住んでいるアンデス染織の専門家。講義終了後の食事会で非常に興味深い話を聞いた。

 

アンデスには、もともとインカに代表されるような織物の文化があり、それらを美しい自然と豊富な食べ物が支えている環境があった。だけれども、それらを捨てて、人々はアンデスの山を下り、都市のリマを目指す。でも資本主義システム社会では貧困と差別が待っている。今、リマでは「糸を紡げること」が恥ずかしいことになっている。アンデス出身がバレるからである。でも糸を紡ぐことはペルーの文化の本質とも言える。それを隠さなければならないというのが今のペルーの現状だというのだ。

 

これで糸紡ぎに興味ができ、ユキさんに相談したところ、アンデス出身で糸紡ぎの上手な人がリマ近郊にいるということで、オスカルとローラに会いに連れて行ってもらった。

 

二人は、アンデス山脈のワンカイオ出身。50〜60才くらい。リマにはもう30年住んでいる。二人がリマに来た理由はまた別にあった。1986〜87年、ペルーはテロの時代がある。当時、反政府主義の5万人の兵士が地方を拠点に活動をしたため、地方の住人が犠牲となった。政府かテロか、どっちについているかのスパイと疑われ、大量の虐殺があったからだ。ワンカイオで染織工場を持ち、議員もしていたオスカルは標的となり、命からがらリマへと逃げてきた。その後、ローラや家族を呼び寄せたというものだった。

 

故郷について話を聞いた。ワンカイオはインカ時代のワンカ族という戦に強い部族の中心地で、その血をついでいる誇りがあるという。そして、ワンカイオにはいくつかの村があり、村ごとに違う民芸品を作っている。そこには伝説がある。昔、カタリーナ・ワンカという女性が現れ、それぞれの土地を、クツの村、帽子の村、帯の村、銀製品の村、金製品の村、イスの村、陶器の村、といった具合に作るものを分けたという。二人の出身地ワルワス村は織り物の村だったため。二人は小さな頃からその村で染め織りをしていたのだそうだ。

 

緑も多く、自然が美しく、大地の神や、たくさんの山の神がいる。カミナリを三回受けた人は、山の神の言葉を伝えるメッセンジャーの仕事を務めるという。二人は川の近くの家に住んでいて、そこでゆっくりするのが好きだったそうだ。

 

ローラは糸を紡ぎながら話をしてくれた。アルパカの毛がローラの手を介して気持ちよさそうに糸に形を変えていく姿をしばらく眺めていた。その様子は見ているだけで気持ち良く、なんだか眠たくなってしまう。

 

ローラはものごころついてから糸を紡いでいた。昔は、アルパカや羊を追って、歩きながら糸を紡いだ。男も女もみんな糸を紡いでいた。村には糸紡ぎ大会もあって、みんなで細さと量を競ったという。

 

あまりに上手に細く美しく糸を紡ぐので、「村一番の紡ぎ手だったのか?」と聞くと、恥ずかしそうに「まだまだ、たくさんいたよ」とのことだった。

 

ワンカイオに帰りたいか?と二人に聞くと、オスカルは、息子たちはリマで仕事を持っているから帰る理由はないが、自分は今、あっちに家をつくっていて、9月に屋根を張るとのこと。糸を紡ぎ、自分が得意な染めの仕事がむこうでしたいのだそうだ。ローラにとっては30年住んだリマも自分の家。生活はどこでも同じ。でもワンカイオを忘れることはない。家族がどこにいるかによる。と言っていた。

 

アンデスからリマへと移住した理由は違ったが、土地から離れ糸を紡いでいる姿は、大地や山の神々から切り離されたようで、どこか寂しそうに見えた。

 

リマ郊外には、他にもたくさんの紡ぎ手が隠れているのだそうだ。

 

糸紡ぎを時給換算すると、とても割に合わないという。それはなんとなく想像がつく。しかし、糸紡ぎを時給換算することでしか価値化できない今の世の中は決して豊かとは言えない。

 

アンデスでアルパカや羊を追い、糸を紡ぐ暮らしを見てみたくなった。そこにはこのペルーという国の文化の本質があるのだろう。

 

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オスカルとローラ。

 

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糸を紡ぐローラ。

 

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ローラが紡いだアルパカの糸。

 

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ローラが紡いだ糸と、オスカルが織った布。

 

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ご近所に、もう一人、糸紡ぎできる人がいました。

 

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こんな感じの町です。皆、裸一貫でやってきて不法占拠からスタートし、住みはじめ、その後権利を獲得するのだそうです。生きていくことのたくましさとエネルギーを感じます。ルールありきで発想する日本人である自分に気付かされます。