糸巻きには人の心を落ち着かせる効果があるようだ

サンパウロ9日目。7:30PIPAへ。7:40〜9:00スタッフミーティング(金曜日は一週間の振返りをじっくりやるので月〜木曜日より1時間長い)。そのスタッフミーティングで先生たち(心理学者・理学療法士・言語療法士・看護師・体育指導員などで構成)から、昨日スタートした糸巻きワークショップを受けて「糸巻きをすることで子供たちに落ち着きが見られた」「普段集中するのが苦手な子供が集中している様子があった」「五十嵐が帰った後も糸巻きを授業に取り入れてみてもよいかも」などといったポジティブな意見があった。専門的な視点で自閉症の子供たちと日々向き合っている人たちから、こういった反応が得られたのは良かった。理由は分からないが、どうやら糸巻きには人の心を落ち着かせる効果があるようである。

 

9:00子供たちの受け入れ。みんなが着替えをしてから授業がはじまる(着替えもPIPAで取り入れている生活療法の1つ)。そして、9:20〜11:00糸巻きワークショップを行った。PIPAは7つのクラスがあり、昨日やってないクラスが今日やって、全てのクラスで1回目の糸巻きワークショップを終えた。

 

小さいクラスのこどもが糸を巻き取る装置に強い興味を抱いていた。先生の話によると、自閉症の人は回転するものが好きなのだそうだ。朝のランニングも広場に三角コーンを置いて、そこをぐるぐると走る。糸巻きも手を動かしてぐるぐると糸を巻く。以外と共通点があるのかもしれない。

 

綛糸から糸玉にする工程(糸を引っ張る、糸を送る、糸を巻く)を交代しながらやっている様子を見ていると、それぞれに“できることできないこと”“得意不得意”“好き嫌い”があることがわかる。それは、彼ら一人一人の特徴である。何かが違うとやらないし、面白いとずっとやっている。同じことでも人によって、その反応は違う。中には、あまり興味を示さない人もいる。子供たちそれぞれが自分と糸との相性、自分と所作との相性を確かめるように過ごしているようにも見えた。ゆるやかな雰囲気で時間が流れていった。

 

11:30〜12:30くらいで子供たちは昼食を食べる。そして13:00に迎えに来た親たちに、子供たちを送り出しPIPAの午前が終了。午後、先生たちは明日の授業の準備やレポートや資料づくりなど各自の仕事を行う。自分は、藍染のための大きな鍋やガスコンロなどの道具を出して水洗いしたり、染める場所のセッティングなどを行った。

 

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昨日、谷口木工から届いたばかりの玉に糸を巻きつける道具に興味があるようだ。車のハンドルのように、ぐるぐる回す。

 

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ぐるぐる糸を巻いてみる。

 

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糸を巻く人。糸を巻き取ってもらう人。それを眺める人。ただそこに共にいる人。穏やかな時間が流れる。

 

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藍染めの染料づくりには大量の熱湯が必要となる。偶然にもPIPAに大きな鍋があってよかった。


PIPAで糸巻きワークショップをはじめる

サンパウロ8日目。7:30PIPAへ。7:40スタッフミーティング。その朝のミーティングにて、「糸巻き」を授業に取り入れられないかプレゼンを行った。この数日のあいだPIPAで子供たちと共に過ごし、毎朝広場を走ったりするように、なんとなく彼らとつながる可能性がある所作かなと判断した。「糸巻き」は、組紐の工程(以下参照)で言うと「糸繰り(いとくり)」に相当する。

 

1、糸づくり…桑の葉を育て、蚕に糸を吐かせ絹糸をつくる。綿花を育て綿糸をつくる。それらを染色する。

2、糸繰り(いとくり)…綛糸(輪っか状に束ねられた糸)を、芯などに巻きつける。

3、経尺(へじゃく)…組紐を組むにあたって必要な、糸の長さと本数をとる。

4、玉つけ…経尺した糸を玉(組紐を組む道具の1つ)に巻きつける。

5、組み…丸台や角台といった組台と玉を使って、組紐を組み上げる。

6、仕上げ…組紐の両端を糸で固定する。

※制作する組紐によって経尺と玉つけのあいだに染色が入る場合もある。

 

日本での組紐研修でお世話になった「龍工房(http://ryukobo.jp)」の師匠からは、「組紐は、仕込み八割、組み二割」と教わった。そう、組紐づくりに於いて重要で手間暇がかかるポイントは仕込み(1〜4の工程)なのである。「組み」はもちろん形になる部分なので派手だし、間違いなく腕の見せ所ではある。しかし、その仕上がりを大きく左右するのが、仕込みなのである。仕込みなくして、組紐なし。仕込みこそ組紐の本質とも言える。

 

PIPAでは、様子を見ながら、そして関係性を作りながらではあるが、その仕込みを主にワークショップとして行ってみようと思う。

 

8:00に子供たちを受け入れ、8:30から子供たちと一緒に30分のランニング。何日か一緒に走ってみると、ポルトガル語だし、自閉症ということもあって、言葉は相変わらず通じないのだが、横を一緒に走る人が現れたり、手を握られたり、子供達との関係性の変化を感じた朝となった。「あ、この人、最近よく見るなぁ」くらいだと思うが、多少存在を認識してもらいつつあるのかもしれない。共に過ごすことによる変化なのだろう。

 

ランニングから戻ると手洗い、うがい、水分補給をしてから授業がはじまる。そこに、さっそく「糸巻き」の授業が取り入れられる。9:45〜(5〜7才くらいのクラス)、10:30〜(12〜15才くらいのクラス)、11:00〜(9〜10才くらいのクラス)で実施。1クラス4名程度が協働し綛糸を糸玉にするプロセスを役割交代しながら、自分に合った役割(糸玉を巻く、綛糸から糸を引っ張る、糸を玉に送るなど)を見出していった。なんとなく、みんなそれぞれに、はまる作業があるのが興味深かったし、こうやってそれぞれに役割を見出させ、関われる幅が広いこともまた、糸の持つ可能性でもあると感じた。

 

普段集中が苦手な子供が集中して取り組む姿があったりしたようで、先生達も盛り上がって非常に良い雰囲気となった。明日以降も継続して「糸巻き」を行う予定。繰り返すことで起きる変化を追いかけてみようと思う。

 

13:00すぎ、大工の谷口さんから組台試作品と玉12個がPIPAに納品され搬入完了。

 

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朝のスタッフミーティングで、先生たちが試しに糸巻きしてみる。「糸巻きの仕方で性格が表れます」と伝えると、ミーティング終了後、この先生から「私の糸巻きどうだった?」と質問が、、、気になるようです。「短い時間だったのでなんとも言えませんが、丁寧な性格であることは分かりました」と伝えると、どこかその表情は安心していたように見えた。

 

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5〜7歳のクラス。まずは糸に触れてみるところから。

 

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彼は普段は集中力があまり続かないのに、最後まで糸を引っ張ることをしていたことに先生たちが関心を示しています。

 

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よほど嬉しかったのか、ハイタッチ。

 

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出来上がった糸玉を手渡してくれました。二人羽織状態ではありますが、、、(笑)

 

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12〜15歳のクラス。けっこういい感じです。

 

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9〜10歳のクラス。このクラスが一番それぞれの役割がはまって、いい流れが生まれていました。

 

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糸巻きに、かなりはまったフェリペくん。

 

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糸玉ができたら五十嵐にプレゼント。何故か、どのクラスも自然と最後はこの儀式になります。


谷口木工の仕事の速さ、恐るべし!

サンパウロ7日目。7:30PIPAへ。7:40スタッフミーティングに参加。8:00子供たちの受け入れ。着替えたら広場に移動し8:30から一緒に30分のランニング。今日は抜けるような青空に恵まれ、朝から気温も上がったのでみんな半袖で走った。ブラジルの空は高い。気持ちの良い空気の流れる朝だったからか、子供たちはなんとなく落ち着いていたように感じた。

 

本日のPIPA、自分はここで早退。走って出た汗が額に滲んだまま、9:30すぎに車に乗り込み谷口木工の工場へと約1時間半の移動。どうやらPIPAと谷口木工の位置関係はサンパウロの東の端と西の端らしく、環状線を半周しなければならず、それなりの時間がかかる。

 

今日の目的は、6日前に発注した組台の試作品が出来上がったというので、さっそくそれを確認することがひとつ。もうひとつは、昨日PIPAにて実験で作成した玉のサンプル(25mの糸、240本を芯に巻きつけたもの)も持っていき、それを参考に木製の大きな玉を作ってもらう発注をすること。

 

どちらにしても、細かいところまで説明し、イメージを共有することが必要だったので、日本からハンドキャリーでブラジルに持ち込んだ本物の組台(組紐研修でお世話になった龍工房のもの)を持って行き、組紐を実際に組む様子を見てもらい、その理屈と構造を確認してもらった。

 

谷口さんは、その様子を興味深そうにまじまじと確認し、「このカチッ…カチッ…という組む音も出せるといいね」と言ってくれた。そう。組紐を組む時、糸を巻きつけた玉と玉が当たる時に「カチッ…カチッ…」っと小気味好い音がする。谷口さんは形や機能だけではなく、音まで意識してくれたのだ。大きな組台を作るにあたって、音まで再現できるかどうか正直わからないが、谷口さんの理解の速さと感性の良さに、こっちもテンションが上がった。

 

「試作品できてるので、見てみますか?」と谷口さんの一言で、別の部屋に案内してもらうと、そこには、おそらく世界初となる組紐の巨大な角台の試作品の姿が!!!しかも、もう一つ、ひと回り大きな別のサイズの鏡(組台の天板部分の呼び名)も用意してくれているではないか!!!

 

五十嵐「おおー!できてますねー!」

谷口さん「はい。どうですかね?」

五十嵐「いい感じです!」

谷口さん「それはよかった。色とか高さとか幅とか全部変えられますから言ってくださいね」

五十嵐「はい。ありがとうございます!では、ひとまず、組台は玉との関係が重要になるので、これを…」

 

昨日完成した玉のサンプル(240本の糸25mを巻きつけたもの)を、谷口さんと通訳の高塚さんに持ってもらい組台と合わせてみる。

 

谷口さん「どうですか?」

五十嵐「うーん…。鏡のサイズはグレーの方かな。あと、ここを少し下げてください。それに、ここはひと回り小さくなりますか?」

谷口さん「はい。できますよ。高さは?」

五十嵐「高さは良さそうです。だいたいこんなもんですかね。」

谷口さん「あと玉ですね。これ試作品の一部、円盤部分です。どうですか?」

五十嵐「そうですね。厚みを半分にして、、、あとは軽くしたいので、、、ここにこうやって穴を開けることはできますか?」

谷口さん「はい。できますよ」

 

と言うと、頭の回転の速そうな若手従業員を一人呼び寄せて、240本×25mの糸を巻きつけた玉のサンプルを見ながら、何やらいろいろとポルトガル語で指示を出している。若手従業員は細かい寸法などを確認していた。

 

この時点で13:30を回っていたので、いったん昼食を食べに近くのレストランへ…。

 

14:30前に谷口木工まで戻ってくると…。なんと!なんと!もうさっき指示出しをした玉が出来上がっているではないか!!!なんという仕事の速さ!!!感動すら覚える。

 

これまでの自分を振り返ると、良い作品が生まれる時はイメージをすぐ形にできる人(大工さんや建築家)と組むことが多かった。今回は谷口さんということか…。これは良い感じの作品になりそうな流れの匂いがする。

 

そのままの流れで、その場で玉のサイズやデザイン、組台のデザイン変更をすぐに形にして修正してもらい、組台と玉の試作品が完成(組台の色はグレーから自然な木の色に変更予定)した。

 

これをPIPAに搬入してもらい実際に使って、修正を加えるか判断し、問題がなければ、そのまま本番の組台を発注する。発注から2〜3日で作れる体制を、スケジュールの確認まで含めた交渉を済ませ、帰路についた。

 

谷口木工の仕事の速さ、恐るべし!

 

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朝、レジデンスからPIPAに向かう途中にある、お肉屋さんの前にて。プロレス技のような肉の担ぎ方も凄いが、この状態で肉が届くのもすごい。

 

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今朝は日差しがあり暖かい。みんなの調子も良さそう。

 

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ブラジルの空は高い。

 

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組台(角台)と谷口さん。会社スタッフに構造について伝えています。

 

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組台の試作品と玉のサンプルを合わせてイメージ確認。

 

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玉の両側に付ける円盤を薄くできないかスタッフに伝える。

 

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鏡(組台の天板部分)のサイズと色の別サンプル。

 

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玉の図面変更を細かく指示出しする。

 

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滑車も仮で取り付けてみてイメージを詰めていきます。

 

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お昼ご飯を食べて帰ってきたら、なんと!ついさっき指示出しした玉の試作品がもう形になっていました。玉の軽量化と横から糸が見えるようなデザインにしました。

 

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実際に、玉に糸を巻きつけてみるとこんな感じ。

 

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鏡の中心が分かるように穴が欲しいというと、すぐに開けてくれる。仕事が早い。


走ってつながる感覚を覚える

サンパウロ6日目。今日は天気が良く暖かい。どうやら晴れる(日が差す)と暖かくなり、曇りや雨だと寒くなるようだ。今サンパウロは冬なのだが、5℃の日もあれば27℃の日もある。季節ごとに気温が安定している日本に比べ寒暖差が激しい。

 

7:30PIPAへ。8:40スタッフミーテング参加。8:00子供達受け入れ。8:30から一緒に30分ランニング。自閉症の人は言葉でのコミュニケーションが苦手。自分もポルトガル語でのコミュニケーションは苦手。先生たちをはじめ、他者との距離感はある種同じ感覚なのかなと思う。そんなみんなと今日も走る。昨日は調子が良かった人が今日は調子が悪かったり、その逆があったり、何がきっかけなのかは分からないが、いい感じでいける日とそうでない日があるようだ。あと単純に走るのが好きと嫌いというものあるのかもしれない。

 

それでも、ぐるぐると、ひたすらに広場をみんなと一緒に走る。

 

ぐるぐる。ぐるぐる。ぐるぐる。ぐるぐる。

 

笑顔。笑い。涙。悲しみ。怒り。奇声。苛立ち。興奮。やさしさ。甘え。33人の子供と20人の先生たちの様々な感情や状況が一緒に広場を回る。

 

ぐるぐる。ぐるぐる。ぐるぐる。ぐるぐる。

 

ずっとそんな状況で走っていると、いつしか、何か、流れのようなものを感じるようになった。見えない流れだ。何か感情の流れのような、存在が動いて生み出す流れのようなもの。それらが空間を掻き混ぜながら溶け合い。さまざまな感情や存在が大きなエネルギーの渦の波の中に飲まれていく。グルーブ感というか、10年出ている博多祇園山笠に流れるあの感じと、どこか似ている。ああいった祭りのように、人が集まって一つの方向に動いた時に生まれるエネルギーの流れだ。

 

明らかに走りはじめた時よりも、今の方がその流れが強い。そして、昨日の流れとは違う。今日は今日だけの流れなのだ。この時、走りながら何かとつながっている感覚を覚えた。

 

言葉に頼れない分、自分は他の部分で様々なことを理解するしかない。そうすると自ずと他の感覚が開いてくる。言葉を無くして、ひたすらに同じ場所を自閉症の人たちと一緒に走っていると、走ることでこういうことが起きていることに気づかされた。走ることでもつながれるのだ。そんなこと考えたこともなかった。

 

「PIPAのみんなは、こっちにいたのか、、、」心の中でつぶやいた。みんなのいる世界を垣間見た気がした。

 

広場からPIPAへもどったあとは、障害物運動や縄跳び、音楽の時間など他の授業と子供達の変化をリサーチ。13:00に子供たちを送り出し、午後からはPIPA内での組台仮設置場所を選定し採寸を行ったり、玉のサンプルに昨日経尺した240本の糸25mを玉付け(巻きつける)作業した。この25m×240本を玉付けしたサンプルを明日、谷口木工に持って行き、リオデジャネイロの展示で使用する玉を作ってもらう。

 

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同じ場所にいても感じている世界は違う。

 

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こんな障害物を越えていく授業もあります。

 

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長縄の時間。普段からやっているからか、みんな運動神経が思ったより良い。

 

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玉のサンプル(厚紙でできた芯)に25m×240本を巻いてみた。これで、だいたいの1玉の大きさがわかる。

 

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13:00子供たちを送り出す風景。外では親が迎えに来ている。先生が「ボアタルジ」と、こんにちはの挨拶。こどもは小さな声で「ボアタルジ」か、先生の「ボア?」に対して「タルジ」と答えて帰る。

 

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藍染めのためにホームセンターで購入した90ℓと60ℓのポリバケツとタライ2つ。

 

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藍染めのための道具。無事に空港の税関を通過できてよかった。すくも(藍の葉を発酵乾燥したもの)、木灰、石灰、ハイドロ(還元剤)、ph試験紙、ゴム手袋などなど。クラフト工房La Manoの全面協力に感謝!


Autista(自閉症)とArtista(アーティスト)は1字違い

サンパウロ5日目。曇り。肌寒い朝。7:30PIPAへ。今日から本格的にPIPAでの仕事であり交流がはじまる。

 

7:40スタッフミーテングに参加。約20人の心理学者、理学療法士、言語療法士、看護師、体育指導員が施設長のヒカルドを中心に朝のミーティングを行う。当然、ポルトガル語なので理解はできない。それでもそこにいること。ともに過ごすことが大事だし、言葉は分からないが、その振る舞いや、言い方など、言語以外の情報から一人一人のことを少しずつ把握していくこともできる。話し手の方を見ながら、目が合うと軽くうなずいてみたりする。相手も「こいつ言葉が分からないんだろうな」と思いながらも、真剣に聞いているとちゃんと話をしてくれる。ポルトガル語に耳を慣らすには良い機会である。あと、これはブラジルの常識なのか、PIPAの常識なのか分からないが朝のミーティングにポンデケージョやクッキー、ジュースやコーヒーが出てきて、それを食べながら行う。日本では朝のミーティングでこんな雰囲気はないような気がする。

 

8:00になると、親に連れられて子供たちがPIPAにやってくる。玄関に先生が1人立って、子供と正面に一対一で向き合い「ボンジーア(おはようございます)」と朝の挨拶。子供は恥ずかしいのか、言葉が理解できないのか、もごもごしている。先生が「ボン?」と聞く。すると子供は「ジーア」と答える。慣れている子供は「ボンジーア」と小さな声で返事をする人もいる。そんな朝の挨拶を一人一人してから、建物の敷地内へと子供たちは入っていく。玄関先は親同士の会話、親と他の先生との会話で賑わっている。週末過ごした家での様子、買い物に行くなどPIPAからの宿題ができたかどうかといったの情報交換をしている。

 

各教室で着替えを済ますと、病院の裏の駐車場広場まで5分ほど歩いて移動し、PIPA恒例のランニングがはじまる。PIPAが取り入れている生活療法の基本で、走って心身を安定させる治療法である。雨の日と朝のミーティングが長い金曜日以外は走るそうだ。自分は一緒に走るのは今回が初めて。広場に着くと軽く準備体操をしてから約30分走る。広場に三角コーンを十数メートル四方で置いて、33人の子供と20人の先生が一緒にグルグルと走る。左回り。子供たちの年齢も5歳から18歳くらいまでいるので、走力にも差がある。だがそれ以上に、いろんな人がいる。泣いてる人、奇声をあげて叫んでる人、座る人、突然止まる人、ゆっくり走る人、早く走る人、ドタバタ走る人。走り方?というかそこにいる姿は人それぞれ。最初は少し戸惑ったが、まぁこういうものかな、、、と受け止めてみる。先生にお尻を押されながらとか、泣きながらとか、にこにこしながらとか、無表情とか、いろんな感情が入り混じりながらも走っている姿は、どこか皆愛らしい。

 

しばらく自分も一緒に走っていると、かつて自分も走って精神のバランスが良くなっていたのを思い出した。小学生の頃もそうだが、特に中学生の頃、やたら走るのが気持ち良くて、わざわざ早く起きて走っていた。走る意味など特になかったのだ。ただ走りたかった。走るとスッキリしてなんか調子が良かったのだ。あれはもしかしたら、無意識のうちに体が走って精神バランスを整えることを求めていたからなのかもしれない。

 

そもそも、自分には自閉症の傾向がある。これはTURNに関わって、国内のLa Manoという施設と交流した時に、そこのスタッフに言われて気がついたことだったのだが、例えば、食事の時に一種類ずつ食べていく傾向がある。学校に通っていた頃は三角食べをしなさいと先生に言われて気をつけていたのだが、行かなくなると戻ってしまった。他には、縦横きっちりモノを並べないと気になってしまう。少しずれた机の角度を直したり、机の上の道具や書類、引き出しの中のスプーンやフォークなんかを、ついつい並べてしまう。レジデンス先の畳の部屋なんかはA4書類が一定方向に無意識のうちに並べられていたりする。自分は単なる「癖」だと思っていたが、これも1つの自閉症の傾向なのだそうだ。ブラジルでPIPA施設長のヒカルドと食事をした時にも、やはりその指摘があった。ちなみにヒカルドは、少しでも汚れが服に付くと、それが取れるまで気になって仕方なく、他のことが手につかない。それが自分の自閉症の傾向だと言っていた。まぁだれでも、そういった癖や気になってしまうことがある。そう思えば、だれもが皆の中に自閉症の傾向はあると言える。

 

そして、ヒカルドに質問をした。

 

五十嵐「自閉症ってポルトガル語でなんて言うの?」

ヒカルド「アウティスタ」

五十嵐「あれ?その音、アーティストに似てるね」

ヒカルド「アーティストはポルトガル語でアルティスタ」

五十嵐「おお!アウティスタとアルティスタ。すごく似てる!!!なにそれ?スペルは?」

ヒカルド「アウティスタはAutista(自閉症)。アルティスタはArtista(アーティスト)。UとRの一字違いだね」

五十嵐「それは面白いね〜。ヒカルドそれ知ってた?」

ヒカルド「知らなかったよ。そんなこと考えたこともないよ。ポルトガル語で2つは別の意味ね。よくそんなこと気がついたね(笑)」

五十嵐「でも自閉症とアーティストが一字違いって、、、なにかあるよね。似たようなもんだってことか(笑)」

 

Autista(自閉症)とArtista(アーティスト)。2つは1字しか違わない。

 

Artista(アーティスト)の自分は、Autista(自閉症)のみんなと一緒に走っていてどこか懐かしく安心していた。似たもの同士だからだということをポルトガル語が教えてくれた。

 

その後、ホッピングなど他の授業方法や子供達の特徴や能力差をリサーチ。13:00になると、子供達を迎えに来た親たちに受け渡す様子を見学。午後からは、谷口木工に組台の玉のサイズを発注するため、実際に組む紐の長さと本数を経尺(25mの糸を240本経尺)作業を行った。

 

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Autista(自閉症)とArtista(アーティスト)が走る。

 

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五十嵐用に用意してくれた教室で糸を並べて日本から持ってきた数を確認。

 

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授業風景。ホッピングもやってます。

 

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竹馬もあります。

 

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PIPAの通路を使って25m×240本の糸を経尺。これを1つの玉に巻いて、合計8玉用意します。それで八つ組みすると15mの組紐になる計算です。

 

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ホッピング置き場がちょうど経尺に使えました。


ヒカルド家へお呼ばれする

サンパウロ4日目。PIPA施設長ヒカルドさんと日本祭り(来週7/9,10,11が本番で非常に大きなイベント。PIPAも参加する。五十嵐も親の会の一人として手伝いに行く予定)の前週祭のようなものを視察。その後、ヒカルドさんの親戚50人が集まる日系人街へ挨拶に行き、食事会に参加。サンパウロでの活動内容をプレゼンし組紐を紹介。この親戚が集まる会は毎月一度はやっているという。しかし、集まっている親戚が多くてびっくり。そして年齢層も子供たちから、お父さん お母さん世代、おじいちゃん おばあちゃん世代、若い10〜20代まで、ほぼ全ての世代がいて、親戚全員がいる感じ。とてもあたたかく迎え入れてくれ、初めて来た場所なのに、どこか懐かしい感覚さえ覚えるほどだった。きっと昔の日本はこんな感じだったんだろうなぁと思うような雰囲気だった。ヒカルドの一族は、もともと沖縄からの移民。苗字で言うと「和嶋」の一族。ブラジルには家族や親戚のつながりを大事にする古き良き日本の感じが残っているのかもしれない。

 

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日本祭り前週祭にて。サンパウロの空に棚引く七夕飾り。

 

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日本祭り前週祭にて。ステージで歌や踊りのパフォーマンスがあります。

 

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日本祭り前週祭にて。焼きそばが人気。

 

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ヒカルドの家にて。一人の若者がおもむろに袖をめくり見せてくれました。「和嶋」一族なので和嶋の刺青間違っていないけど、日本では苗字を刺青している人は少ない気がする。漢字は流行っているようです。

 

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部屋を隣に移動しても、こんな感じに山盛りの食べ物とお酒が乗ったテーブルを人が囲んだ風景がいくつも広がっています。

 

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組紐を見に別の部屋からも来てくれました。

 

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現代では、組紐は主に帯締めで使用されていると説明すると、、、こんな感じか?と言わんばかりに見せてくれました。ほろ酔いです(笑)

 

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サンパウロの住宅街の夕暮れ。


サンパウロ生活は日が暮れると自然と緊張感が芽生える

サンパウロ3日目。午前中はレジデンスにてスーツケースの荷物や道具の整理を行った。午後から移動し、PIPA会長の井上さんと食事会だった。

 

井上さんは日系ブラジル人。日本からブラジルへ渡り、何もないところからはじまり、今は会社や学校で使う事務机などをつくる会社を経営し、PIPAの会長も務めている。ブラジルに来て約40年。ブラジルに渡った当初、現地で差別を受けていた話など、これまでの壮絶な人生の話を聞かせてもらった。

 

一番勉強になったのが、一緒にブラジルに渡った4人の仲間の内、3人は既に殺されたという話だった。理由は、強盗に襲われたり、クビにした従業員の旦那に恨みをかったり、自分が育った現代日本では考えづらいものばかりだった。

 

井上さんから見ると、今の平和ボケしている日本は世界的視点では「なめられている」と言っていた。ここブラジルでは、いつ何時、何かに巻き込まれて殺されるか分からない。殺されたら終わり。運悪く強盗に遭遇して、自分で自分を守れなかっただけ。

 

ナイフやピストルを突然、突きつけられた時に渡すお金を用意しておかなければならない。その際、差し出す時にポケットに手を入れてはいけない。相手はナイフを取り出すと思って引き金を引く。その覚悟と準備をしておかなければならない。と教えてもらった。

 

日が暮れて、辺りが薄暗くなってくると自然と芽生える緊張感は、落とした財布の中身が一切無くならず、そのまま戻って来るような平和な日本に育った自分には、逆に新鮮で、襲われた時、やるのか、やられるのか、その時どうやって逃げるのか、自分の身を守るということについて考えるようになる。その瞬間から生き延びるために。

 

そして、広くは、自分の国を守るということとはどういうことなのか、日本にいる時には考えられない世界基準の日常的感覚をベースとした国防についても考え直さざるを得ない。

 

殺されたら終わり。。。とにかく生きている緊張感が違いすぎる。危ないから外国には行かない方がいい。それはそれで何も間違ってはいない。しかし、世界と日本について考えるならば、日本にいるだけでは、テレビやインターネットなどだけで得た情報だけでは、やはり知ってはいても実感は得づらい。今の我々日本人は、あまりに世界に対する想像力が足りていないのだろう。誰かが見てきた、さらに編集された断片しか見えていないのだから。

 

日本にいたらどうしても、日本を基準とした肌感覚や一般常識でしか、ものごとを判断できない。日本の常識は世界の非常識で、世界の常識は日本の非常識だったりする。この地球という星で生きるのであれば、あくまで関係性の中にあるということを忘れてはいけない。知らないでふらふら出ていったら、下手したら死んでしまうのだから、、、知らなかったから、そうは思ってなかった、、、では済まされない。故に、どちらが正解ということでもないが、関係性を知らずに判断するということは、それこそあまりに危険なのだ。

 

弱いものを守ることが、他の動物とは違う人間らしい社会だと学び、そう思っているが、そのためにはまず自分が強くなければならない。気がついたら、知らず知らずのうちにいつのまにか弱者になっている自分がいる。だれもがそうなる可能性はある。今の自分は強いのか?世界と比べてどうなのか?これまでの日本人と比べてどうなのか?本当の強さとは何なのか?

 

社会や制度や国に守られて、自身の弱さを忘れていないか?強くなるために努力をしているか?もちろん強さは力だけではない。その生きる意志や姿勢でもある。本当に強い者とは、自分の運命から逃げず真っ向から立ち向かう勇気のある者。本当に弱い者は、自身の中に生じる未来や他者といった“わからないもの”を恐怖として捉え、それに呑まれてしまう者。

 

そう考えると、この世には、強い者も弱い者もおらず、皆が強くも弱くもなりうるといこと。

 

かつて、自分の生であり運命と向き合い、この世界を強く生きた人たちのように、強くこの世界を生きたい。

 

自分と向き合うことは世界と向き合うこと。世界と向き合うことは自分と向き合うこと。

 

人は必ず死ぬ。どう生きるか、、、どう自分という世界と、世界という自分と向き合うか、、、弱い自分と向き合い、虚勢をはるのではなく、素直に立ち向かうか、、、それ以外ない。

 

強く生きるためにブラジルで世界と向き合い、自分の弱さに向き合いに来たとも言える。

 

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滞在先の門。出かける時も家にいる時も、必ず南京錠をつける。守られているようにも、檻に閉じ込められているようにも思える。だがこれがない家はない。

 

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このレジデンススペースは、普段はPIPAの親の会が集う場所。子供をPIPAに預けている8〜13時のあいだここにいて、お祭りに向けて食べ物を作って準備をしたり、話し合いをしたり、バザーをしたり、コミュニティースペースとして利用されている。自分はここに約1ヶ月滞在させてもらう。

 

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中はいくつもの部屋がある。

 

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バスルームはこんな感じです。

 

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ここが自分の部屋。ベッドとデスクのみのシンプルな部屋です。

 

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キッチンとダイニングスペース。遠くから通っている親子はここで朝食を準備して食べたりもします。

 

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玄関入ってすぐの部屋はバザーの部屋。


PIPAとは

サンパウロ2日目。冬のサンパウロの朝は肌寒い。7:30にPIPAへ。レジデンスからは徒歩5分程度。「…ボンジーア」ポルトガル語で挨拶を交わす。誰が誰だか分からないが、ひとまず「おはようございます」からはじめてみる。朝のスタッフミーテングに出席して、20名のPIPAスタッフに向けて、ここでの交流イメージと滞在目的をプレゼン。そして、組紐パフォーマンスを行う。組紐が組まれるの様子を実際に見るのは分かりやすかったようで、みなさん興味を持ってくれたようだった。

 

スタッフの一人から「なぜPIPAを選んだのか?」という鋭い質問があった。自分は「PIPAは、走ったり、体を動かして自閉症の子供たちの精神のバランスを整える施設だと聞いている。自分は今回、組紐を組む準備段階にあたる、糸を巻いたりすることをしながら、身体の感覚を通して自閉症の子供たちと交流してみたいと考えている。走ること、糸に触れること、どちらも言葉の交換ではないコミュニケーションのあり方に共通点がある。だからPIPAを選んだ」と答えた。頷いてくれていたので、一応納得してくれたようだ。

 

その後、太鼓の授業などを見学しPIPAの運営スタイルをリサーチ。続けて、PIPAの親の会のみなさんに挨拶し、同様に組紐の紹介など活動内容をプレゼン。お母さんたちもエネルギッシュ。たくさん話しかけてきてくれたのだがポルトガル語が早口で何を言っているのか分からなかった(笑)。でも、笑いが絶えず、みなさん明るく良い雰囲気で安心した。日本も世界中もそうだが、お母さんたちが元気なコミュニティは健全さを覚えた。これまで出会ってきた各地のお母さんたちを思い出した。母は強しというか、この方たちを味方にしたら百人力だが、敵に回したら恐ろしいことになると肌で感じる。

 

夕方から藍染を行うための道具を買出しに、ホームセンターへと施設長のヒカルドさんに連れていってもらい、90リットルのバケツやタライなどを探す。22時ごろ帰宅。今日もハードな1日だった。

 

【PIPAとは】

「Projeto de Integracao Pro-Autista」の頭文字をとって「PIPA」。日本語に訳すと「自閉症児療育施設」。今年で設立10年目を迎える。

 

現在PIPAは33人の自閉症の子供と20人の専門家スタッフと親の会で構成されている。専門家スタッフは心理学者・理学療法士・言語療法士・看護師・体育指導員など。スタッフ全体の約半数は心理学者。

 

特別支援学校ではなく、自閉症児療育施設になるので、教育者は1人もいないという部分が非常に興味深い。染織の専門家しかいないLa Mano(日本でのTURNで自分が交流した施設)との共通点でもある。

 

毎朝、専門家がディスカッションを行い、療育による子供達の日々の変化や効果についての振り返りがあり、

また、その内容が今日に反映されるといった形式をとっており、スタッフは皆モチベーションが非常に高い。

 

療育方針としては、「生活療法」をとっている。生活療法の目的は、子供達に自信をつけさせ、社会に出て積極的に働ける人に育てること。そのために、知能・心・精神のバランスを保てるよう、以下の三つの活動を続けている。

1、運動をしっかり行う。

2、精神を安定させる。

3、知能を養う活動

この三本柱から治療法は、運動をすることにより子供の体内時計を調整し、健康面や体力、気力を充実・安定させ、状況把握と集中力を高めることにより、多動性を制限する医薬品を必要としなくなる。とのこと。

 

平たく言うと、投薬ではなく体を動かして心のバランスを保つというやり方。故に毎朝のランニングはPIPAの基本となる。

 

自閉症の問題は自閉症児本人の病気そのものにあり、それに対する投薬というのが一般的なブラジルでの治療法(要は薬漬けにして関わらない方法)なのだが、PIPAは自閉症児とそれを取り巻く関係性が問題で、〈自閉症児と親の関係性〉、広くは〈自閉症児と社会との関係性〉が病気という考え方。

 

なので、親たちへの療育でありカウンセリングも非常に大事にしており、自分の心を鍛え大事にすることで、息子や相手を大事にできるようになるよう、価値観やものの見方の変化の必要性をPIPAに入るタイミングから継続して親にも伝えている。結果としてPIPAをきっかけに自閉症児との関係性を築き直すトライアルをしている専門家と親の連携も深く感じた。

 

先生たちと親と子供たちは一人一人に向き合い、関係性、信頼関係を築き、それが絆となる。そうすると、子供たち一人一人は少しずつ自分らしさであり、できることであり、才能を表に出すようになる。

 

こうして、人が人と向き合い生まれる関係性と共に、それぞれに違った才能が育まれる。本来の社会教育のあるべき姿のように感じる現場。

 

自分の活動としては、自閉症という特に言葉でコミュニケーションすることが苦手な子供たちと、PIPAスタイルでもある毎朝のランニングを一緒にすることで、走ってつながるコミュニケーションを重ねてみようと思う。そうして、自分もPIPAのみんなを知り、PIPAのみんなにも自分を知ってもらうことを続けてみる。

 

それと並行して糸巻きワークショップを通して、糸を巻くという言葉ではない糸でつながるコミュニケーションを、彼らの世界とつながる新しい方法として実践してみようと思う。

 

当初予定していた「藍染め」と「組紐を組む」は、まだ先のステップになるように感じているので、関係性の段階を見ながら挑戦していこうと思う。

 

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レジデンス前の通り。朝7時過ぎ。電信柱の奥の茶色い屋根の薄ピンク壁の家が滞在先。

 

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興味深そうに観察してくれていました。

 

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日本の伝統技術であること。細かく繊細な仕事であることは伝わったように感じました。

 

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スタッフ20名の約半数は心理学者。他は理学療法士・言語療法士・看護師・体育指導員など

 

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15〜18歳くらいの太鼓の時間。太鼓協会から派遣された先生がちゃんと指導しに来ています。

 

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5〜10歳くらいの太鼓の時間。同じ先生の指導ですが、上のクラスに比べると、まだできることが少ない。

 

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親の会のお母さんたち。調理と試食中。みなさんとても明るいです。

 

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PIPAのあるクラスの時間割。月曜日から金曜日まで。8時に親が送りに来て、授業は午前中のみ。13時に親が迎えにくる。ちなみに1クラス4〜5人で7クラスくらいある。

 

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やはり組む様子が一番おもしろいようです。

 

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PIPAの正面入り口。奥に見えるのは同じENKYOグループの病院です。


ブラジルの大工「谷口さん」と会う

実は昨夜6月29日17:00頃ブラジル入国後、すぐホテルへ移動し、その後、19:00頃から現地関係者の顔合わせ食事会があった。代理店担当者:小林さん(日本)、施工担当者:市川さん(日本)、コーディネーター:ジョーさん(ブラジル)、コーディネーターアシスタント:ジュリちゃん(ブラジル)、ドキュメントカメラマン:ラファエロさん(ブラジル)、ブラジル国内広報担当者:エリコさん(ブラジル)、大工:谷口さん(ブラジル)、通訳:高塚さん(ブラジル)などなど、といったメンバーが集った。自分は、そのまま大工の谷口さんと、乃村工藝社の市川さんと組台の施工に関する打合せを行った。結局、この会は23時過ぎまで続いた。到着初日から充実した時間だった。

 

そして今日が、サンパウロ1日目。8:00ホテル出発。午前中に他のアーティストが交流する2つの施設「Monte Azul」と「憩の園」を訪問。それぞれ移動は1時間ほどかかり、サンパウロの広大さを体感した。

 

午後に自分がこれから約1ヶ月間かけて交流をする施設「PIPA」を訪問。施設長のヒカルドさんと挨拶。これから滞在する家や食事に関してなどの暮らし方を、時間がなかったのでごく簡単に確認。ひとまず、最初のPIPAの印象としては場所も人も良さそうである。

 

そして再び車で約2時間移動し組台を作っていただく谷口木工へ。大工の谷口さんと昨日ぶりに再会。谷口木工の工場視察をし、十分な施設と加工技術があることを確認。そのまま組台施工方法、及びスケジュールに関して打合せを行った。出席者は大工の谷口さん・展示全般を扱う乃村工藝社の市川さん・通訳の高塚さん・五十嵐。

 

昨日紹介される際、おそらく自分に分かりやすいように、「大工の谷口さん」と説明してくれたが、谷口さんはブラジルの大きなレストランチェーンに家具を納品し、海外のレストランの仕事もするような大きな家具製作会社「谷口木工」の社長さんであることが分かった。日系ブラジル人でポルトガル語はもちろん日本語も話せるやり手社長である。事務所もブラジルとは思えないくらいにきれいでモダンな内装で、工場では木材や金属を加工する機械とスタッフがフル稼働していた。

 

事務所でデスクワークをしている人、工場の製作スタッフ合わせると数十人はいそうである。そして何より驚いたのは、皆非常に真面目に黙々と仕事をしているのだ。これは失礼な言い方かもしれないが、自分の中ではこんなに真面目にテキパキと働くブラジル人を見たことはなかったし、イメージもなかった。

 

つい先日、出国直前に日本で聞いた仕事向き合う姿勢が各国違うという話では、「日本人は言われなくても仕事をする」「ドイツ人は真面目に仕事をする」「ブラジル人は楽しくないとやらない」なんて聞いていたのもだから、なおさら驚いた。

 

やはり谷口さんは日系ブラジル人。日本の良い影響が会社の雰囲気に現れているのかもしれない。

 

みなさんが働く姿を見て、これは信頼できる。そう思った。

 

谷口さん自身にも組紐の台をつくることに強い興味を持っていただけたようだった。しかも今回製作をお願いする組台は大きい。組紐は普段一人で組みを行うので、その組台はほとんどが卓上サイズなのだが、今回自分はリオでの展示に向けて2人以上で組みをする大きな台を作ろうと計画している。そのあたりに関しても、谷口さんはすぐに理解してくれ面白がってくれた。ブラジルという土地でどうなるか全く見当がつかなかった組台製作であったが、これで目処がついた。

 

組台と玉の試作品制作を依頼し、帰る頃にはあたりは真っ暗になっていた。到着して時差でクラクラしながら移動と挨拶と打合せが連続しクタクタになったサンパウロ1日目。PIPAの近くのレジデンスのベッドに沈むように眠る。

 

移動しながら、車窓から見た空の青さが日本と違って見えたのが印象に残っている。

 

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「Monte Azul」で出会った猫。

 

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「憩の園」で出会ったオウム。施設や家で動物を飼うのが一般的なのだろうか?

 

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谷口木工にて。カットや溶接など金属加工もできる。

 

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2人で協力して作業している。真面目なブラジル人もいるのだ。

 

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黙々と細かい仕事に精を出している。


ブラジルでTURNする

サンパウロまであと約3時間。現在、大西洋上空、ポルトガル語が聞こえる機内でブログを書いている。成田発、ドバイ乗り継ぎ、サンパウロ着といったルート。6月28日21:20に成田を出発しサンパウロに着くのが6月29日16:30。時差があってややこしいので単純に移動時間を計算すると、成田→ドバイの飛行時間が10時間40分。ドバイで5時間35分のトランジット。ドバイ→サンパウロの飛行時間が14時間55分。合計すると30時間30分の移動。たった30時間半で地球の反対側まで行くと思うと速い気もするが、さすがに長い。トイレ以外は座席から動けないまま、朝も夜も分からず、ひたすら出された物を食べ続ける時間が続くと家畜になった気分になる。(とはいえ、もちろん残さず食べるのだが。笑)

 

それが耐えられないのかどうか分からないが、ブラジル人は勝手に機内で動きだす。おばちゃんたちは席を立ち、角の空いたスペースに集い、どこから出してくるのか分からないリンゴを美味しそうに食べながら談笑している。男性はワインのミニボトルを片手にCAと仲良くなり会話が弾み盛り上がっている。今ある状況を楽しむ、こういったスタイルがなんともブラジル人らしい。そんなこんなで小鳥のさえずりのように機内に響くポルトガル語が止むことはない。

 

次に日本に戻るのは9月9日。今日から約2ヶ月間、ブラジルでの滞在制作がはじまる。大きく分けると前半の1ヶ月はサンパウロ。後半の1ヶ月はリオデジャネイロといったスケジュールになっている。目的はブラジルでTURNするということ。

 

東京都とアーツカウンシル東京は、東京2020オリンピック・パラリンピックの文化プログラムの先導的役割を果たす、リーディングプロジェクトを平成27年より実施しており、今年度は世界中の注目が集まるリオデジャネイロ2016オリンピック・パラリンピック競技大会時に現地において、3つのプログラム「東京キャラバン」「TURN」「TOHOKU & TOKYO in RIO」を開催する(https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/what-we-do/creation/leading/)。自分はこの中の「TURN」にアーティストとして参加する。

 

「TURN」とは、異なる背景や習慣を持ったさまざまな人々との出会い方、つながり方に創造性を携え働きかけていくアートプロジェクト(http://turn-project.com)。今年、2016年の3月に東京都美術館で開催された「TURNフェス」にもアーティストとして参加させてもらった。簡単に言うと、そのブラジル版ということである。

 

今回の文化事業の大枠である「CULTURE & TOKYO in RIO」の中での「TURN」では、日本及びブラジルを拠点に活動するアーティストたちが伝統工芸を携えて、サンパウロに滞在しながら福祉施設に通い、入所者の日常に触れながら関わり合っていく交流プログラムを実施する。そして、そのプロセスを通して生まれた作品等をパソ・インペリアルに展示するとともに、ワークショップやカンファレンス等を開催する。

 

リオデジャネイロでの展示期間は2016年8月18日〜9月7日。それまではサンパウロでの滞在と交流プログラムを通しての作品制作を行う。

 

参加するアーティストはブラジル人2名。日本人2名の合計4名。それぞれ違う福祉施設で交流。またそれぞれに別の伝統工芸を作品の題材とする。

 

ジュン・ナカオ(アーティスト/ブラジル)=〈福祉施設〉憩の園=〈題材〉セスターリア(ブラジルの伝統的な籠編み)

タチ・ポロ(アーティスト/ブラジル)=〈福祉施設〉こどもの園=〈題材〉江戸つまみ

瀧口幸恵(ワークショップファシリテーター/日本)=〈福祉施設〉Monte Azul=〈題材〉東北切り紙「きりこ」

五十嵐靖晃(アーティスト/日本)=〈福祉施設〉PIPA=〈題材〉江戸組紐

 

自分が学んだ伝統工芸は「江戸組紐」。日本橋にある「龍工房」で学んだ(http://ryukobo.jp)。組紐とは、糸あるいは糸の束を組合せてつくった紐。通常は絹糸や綿糸などの繊維類を数本または数十本の単位とし、これを3単位以上そろえて、ある一定の方式(組み方)に従って斜めに交差させ、細幅や丸い紐につくる。

 

組紐の歴史は仏具や経典などに付属する飾り紐として奈良時代に伝来し、平安時代には日本独自の技法が確立されたという。その後は主に武具の一部や茶道具の飾り紐として用いられ、やがて羽織の紐や、帯締めとして使われるようになった。今現在、日常の中で、我々の目にもっともふれやすい組紐は着物の帯締めだろう。

 

だが組紐の原点である縄の歴史を紐解くと、縄は、いまから1万年くらい前の遺跡から発掘されており、また8000年前の縄文式土器に、三つ組や四つ組の縄の圧痕があるし、5世紀時代の古墳から出土した鎧の威(おどし)糸は、八つ組(今回自分が龍工房で習った組み方)の組紐であった。といったように、そのはじまりは人が人になった頃まで遡る。

 

人類が発見した糸との関わり方には、大きく分けて3つの方法がある。それは〈編む〉〈織る〉〈組む〉。自分は、これまでの作品を通して、知らず知らずのうちに〈編む〉と〈織る〉に出会ってきた。〈編む〉は「そらあみ」(瀬戸内国際芸術祭2013・2016/沙弥島)で、糸を編むことで土地の風景を捉え直した。〈織る〉は「New Horizon」(TURNフェス/東京都美術館)で糸を織ることで、新たな水平線を織り成した。そして今回、偶然にも〈組む〉に出会うこととなった。これはいったい、偶然なのか、、、必然なのか、、、。

 

今回自分がブラジルで交流する施設は「PIPA」。ポルトガル語で〈Projeto de Integracao Pro-Autista〉の頭文字をとったもの。日本語に訳すと「自閉症児療育施設」。自閉症の子供たちがいる施設である。自閉症の人は現代社会において弱者として扱われている。だが自分はTURNフェスを通して、弱さこそ人類のアイデンティティーであると知った。

 

人のはじまりは猿である。当時、森の中で食べ物を獲得するにはゴリラやチンパンジーに力で勝てず、森を捨て、平地を歩き二足歩行になり、知恵をつけ火を使い食べ物を獲得してきた。今は、あたかもこの星の支配者のようにふるまってはいるが、我々のはじまりは、〈弱き猿〉である。弱さこそ我々のはじまりであり、アイデンティティーなのである。その〈弱さ〉を忘れた現代人は、社会運営において弱者を排除するようになった。このように弱さを認められない社会というのは、無意識のうちに自己否定している社会とも言える。自殺者や精神的な病に陥る人が多いのは、そのせいなのではないだろうか。〈弱さこそ人間らしさ〉であるならば、これから出会うPIPAの自閉症の人たちから、弱さであり、人間らしさを学びに行こうと思う。彼らは我々より、より人類のはじまりである弱さに近い、人間らしい存在である。自分はポルトガル語を話せない。なので言語でのコミュニケーションはできない。しかも相手は自閉症である。コミュニケーションとして使えるのは、この体と糸。そして、それらを〈組む〉ということ。

 

今回、糸はTURNフェスで一緒に作品づくりをしたクラフト工房La Mano(町田にある福祉支援が必要な人たちが働く染織工房→http://www.la-mano.jp)のみんなと一緒に藍染してTURNフェスで使用した糸。そして、新たにLa Manoにお願いし、工房の展示会直前で忙しい中「やすあきさんの糸」という合言葉で、みんなで染めてくれ、日本出国直前に受け取った糸(自分はLa Manoでは「やすあきさん」と呼ばれている)。そして、なんと、La Manoで学んだ藍染の技術を使ってブラジルのPIPAで藍染めに挑戦する糸を合わせて、組んでみたいと考えている。日本の町田のLa Manoで藍染めした糸と、ブラジルのサンパウロのPIPAで藍染めする糸を組む。地球のあっちとこっちを組んでみる。

 

こうして、糸にまつわる物語〈編む〉〈織る〉〈組む〉の三部作の最後、〈組む〉の物語が、日本から、ちょうど地球の裏側のブラジルで、今、幕をあける。

 

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〈編む〉は「そらあみ」(瀬戸内国際芸術祭2013・2016/沙弥島)で、糸を編むことで土地の風景を捉え直した。

 

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約200人の島の漁師さんたちと編んだ。

 

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〈織る〉は「New Horizon」(TURNフェス/東京都美術館)で糸を織ることで、新たな水平線を織り成した。

 

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織り機の縦糸に着想を得ました。

 

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成田からドバイ。10時間40分。

 

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砂漠と高層ビルのドバイ。

 

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砂漠と海のドバイ。

 

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ドバイからサンパウロ。14時間55分。

 

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どこまでも町が続くサンパウロ。サンパウロと日本の面積が同じらしい。

 

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日本人街の信号機。